第5輪 証明されたオカルトを科学と呼ぶ

 ラベンダーもオレンジも、思ってた性格とちがうな

          ――ガトフォセ

 深夜1時。
 ガトフォセ家のリビングで、オレたちは白熱した議論を繰り広げていた。
 その結果、リビングでは物が飛び交い、床は散らかっていた。ガトフォセが退院したら、怒られるな。テーブルの中央におかれたビンのなかで、真っ赤な鳥がつまらなそうに、あくびしていた。
 これだけ騒いでも、ガトフォセの奥さんが来ることはなかった。オレとラベンダーがよく、この時間になると、ケンカするから慣れてるんだ。

(君の家でのポルターガイスト現象も、地球をよくしようとする仲間たちが、ひょっとすると政治家のようにおたがいの意見をぶつけて、ケンカしてるのかもしれない)

 ビンをどうするかについて、意見は分かれていた。
 処分したいオレ。
 冥府に持ち帰りたいペパーミント。
 私物化したいラベンダー。
 オーストラリアに上陸させたくないティーツリー。
 少年姿のオレは、首を横に振った。

「ダメだ、ペパー。これはぜったいに処分する!」

 ペパーミントが大人の姿ですごむ。

「さっきもいったけど、スパフの居場所を調べたのはぼくだし、UFOを持ってきたのもぼくだ! せっかく捕まえたんだ、ぼくにくれ。その権利がぼくにはある!」

「ガトフォセを救うためだ、処分する」

「オレンジ、親友として意見するけど、人間にこだわるな。それより冥府へ持ち帰って分析したほうが、今後、また大きな疫病霊があらわれたときに役立つし、より多くの人間だって救える」

「その分析には、どれくらい時間がかかるんだ?」オレは、ペパーミントの目を見すえた。「あと13時間以内で、できるか?」

「そんなの、ムリに決まってるだろう」

「なら、ダメだ」

「オレンジ、冷静になれ。ガトフォセ1人の命と、大勢の命、どちらが大事だ?」

 答えを出せず、だまっているオレの代わりに、ティーツリーがいった。

「おまえのいってることは詭弁だ、オレンジの友よ」

 ティーツリーは、中立的立場だ。オーストラリアに上陸させたくないということを考えると、スパフの勢いを弱めたい。つまり、オレ側なはずだ。

「処分すれば、スペイン風邪の患者は助かる。だが、世界大戦は延長戦になる。持ちかえれば、患者は死ぬが、世界大戦もすぐ終わる。つまり、死傷者数はそう変わらない。予想の話だけどな」

 それだけいうとティーツリーは、再びうでを組んでだまってしまった。気むずかしい。そのへんに生えてる木みたいに動かない――ま、ティーツリーは元から木だけどな――根を貸してくれることに期待していたオレとしては、あてがはずれた。
 白いワンピース姿の少女、ラベンダーはいった。

「封霊ビンにとじこめたんだから、ガトフォセは大丈夫よ。ねえペパー、分析が終わったら、わたしにちょうだいね。それ捕まえたのわたしなんだから」

 オレは言い返した。ここで負けるわけにはいかない。

「封印より、浄化したほうが確実だ。それに目的は、ガトフォセだけじゃない」

 ペパーミント、ラベンダー、ティーツリー。オレは全員を見まわした。

「オレたちの目的は、人間界に精油を普及させることだ。スペイン風邪の本体は捕まえたが、分身たちは世界中を飛んでる。本体をやっつけないと、分身たちにダメージを与えられない。このパンデミックは終わらない。ここで処分しなかったら、大勢の人間が死ぬぞ。そうなったら、フランスの衛生状態はさらに悪化する。おまえたち、またペストを復活させたいのか?」

 ラベンダーが反論した。

「ふん、ペストなんて、またわたしが浄化してやるもんね」

「第5次ペスト戦役で、精霊界でもどれだけの犠牲が出たか、おまえならわかるだろ」

 オレの説得もむなしく、ペパーミントはラベンダー側に立った。

「ペストが復活する頃には、冥府が分析し終えて対策を立ててる」

 こいつらは、あーいえばこういう。何をいってもいいかえしてくる。もう疲れた。
 ラベンダーがそわそわし出した。1か所に落ちついていられない性格のラベンダーにしては、よく頑張ったほうだ。

「もうわたし疲れちゃった。ちょっと休憩しましょ。みんな光合成できないから、いらいらしてるのよ。ペパーは紅茶でしょ? ティーはいつものミルクティーでいい? オレンジは?」

 ペパーミントが、おどろいたようにティーツリーを見る。ティーツリーは顔をそらした。

「いや、アタシは何もいらない」

「オレはカフェ・オ・レで」

(言葉遊びが寒いと思ったか? カフェ・オ・レはフランス語だ。この物語はいつもそうだが、作者は何もねらってないし、おまえらが思ってるほど考えてるわけでもない。ただ、ジャズを弾くみたいに即興で書いてたら、偶然が集まってくるんだ。ま、オレがアイディアを落としてるわけだが)

 ラベンダーの背中がキッチンへ見えなくなる。
 沈黙が生まれ、オレたちは無言で、それぞれの思考の海へもぐった。
 ガトフォセは経営の天才だ。やつなくして、精油計画はありえない。
 フランス人は基本的に、霊の存在を否定する。そういう国民性だ。だから、精油の事業に関わっていて霊能力があり、オレたちと会話できるやつなんて、ガトフォセ以外にいない。
 それに、ともだちとして助けたい。
 しかし、精霊界には人間に差別意識や偏見を持つやつが非常に多い。人間のともだちがいるなんて、うっかりいっちまえば、頭がおかしくなったんじゃないかと疑われる。そのまま病院に連れてかれる。いや、冗談じゃない。

(自業自得だな。なのに人間は、よくファンタジーで、魔王とかモンスターを悪役にするんだから不思議だ。オレたちからしたら、おまえらほどの悪たれはいないのに。ま、政府と同じで、自分たちをよく見せたいって気持ちは、わからなくもない。人類もそういう年頃なんだろう)

 そんなわけだから、オレはラベンダーとペパーミントの説得に苦労してるってわけ。
 ラベンダーがもどってきた。ペパーミントとオレにマグを渡すと、コーヒーの入った〈ドコドコさん〉のマグをテーブルにおいた。
 ペパーミントが渡されたOBAKEのマグにはしゃいだ。

「ぼくのマグ、〈オタガイ様〉じゃないか! ところでラヴァー? そのマグ、いったい、それをどこで?」

「これ? うふふ、目がさえてるわね。この〈ドコドコさん〉は、1900年にパリの精霊界で開催された、万界博覧会の限定品よ」

 オレは納得した。ペパーミントのOBAKE好きは、おばさんであるこいつの影響だったのか。

(ちなみにOBAKEというのは、非物質界――オレたちが暮らしてる次元の未確認生物や怪奇現象のこと。ほんとにいるかどうかは疑わしいが、視えるやつには見えるらしい。いろんなグッズも作られてるし、その手の研究者もいる。オレは200年以上も生きてるのに、まだ遭遇したことはないが。ん? いまおまえの後ろにいるその黒い台形の、もしかして……)

(一応、初めての読者のために説明しておく。〈ドコドコさん〉は1番人気がある真っ黒なOBAKEだ。台形や六角形など、いろいろなタイプがいる。とつぜん現れては「ココドコ? ドコドコ?」と地名を尋ね、答えられないと食べられてしまうのが一般的な見解。地名だけじゃなくアドレスも詳細に答えないといけない説もあって、日夜議論が行われている。え? オレは何が好きなのかって? バカらしい、OBAKEなんかいるわけないだろ)

 ペパーミントは目を、きらきらさせていた。

「なるほど、だからエッフェル塔型の〈ドコドコさん〉なのか。六芒星型もいいけど、これもいいな」

「でしょ! わたし、いつか〈ドコドコさん〉に会うのが夢なんだ。だから、毎日霊視力も鍛えてるし、オーキド博士の講演にも行って勉強してるんだ」

「ぼくは〈トオルヨくん〉に会ってみたいな。師匠が紀元前13世紀に、会ったことがあるんだ」

「それね! オリエント・アロマ・アカデミーの生徒だった頃、シナモン先生がいってた! あの花超うらやましい」

 2人は楽しそうに盛り上がっていた。

 オレは2輪に、やさしく水を差してやった。

「おまえら馬花じゃないのか? OBAKEなんかいるわけないだろ、現実を見ろ。200年も生きてるのに、151種類だっけ? ――」

「721種類よ」とっさにラベンダーが答える。

「――そんないるのか、そんなにいるのに見たことがない。つまり、いないんだ。オカルトだ」

 オレの発言がラベンダーの木に触ったのか、小娘は力説し始めた。

「あのね、だったらどうして目撃者が多数いるんだと思う? 火のないところに煙は立たないわ」

「どっかのだれかが、イタズラで変身した。それをみんな、OBAKEだと勘違いした」

「ちがう。オーキド博士の体験談や知識、彼の制作したOBAKE図鑑を見れば、ウソじゃないことはすぐにわかる。彼の霊視力は本物よ!」

「そんなにすごい霊視力を持ってるなら、オーキド博士はアロマ連合かゼンマイ仕掛けの騎士団で、すばらしい調査員になってると思うけどな。この不確かな非物質界で、魔法や超能力の痕跡を調べたり、幻術を見破れるんだ。どこの組織も欲しがる」

「彼は夢を選んだのよ。未知の次元を研究する科学者として、地球に貢献する夢を」

「オレはおまえのOBAKEへの情熱を、地球環境のために使って欲しいよ」

 ペパーミントが笑った。

「オレンジ、君はOBAKEの魅力を知らない。だから、そういうことがいえるんだ」

「ほう、そっちの世界へ引きずりこむつもりか? いっとくがオレは、ロックとかメタル、あとは映画、フットボールしか興味ないね」

「わかった。もう、この話はやめよう」しかし、ペパーミントはおそろしい手札を持っていた。「ところでオーレ(オレさまの愛称)、その手に持ってるマグのイラスト、美人だと思わないか?」

「ああ、オレの魂にゴールインだ。黒髪美人で、すげえカッコイイし、それにセクシーだよな。どこの世界のモデルなんだ?」

 ペパーミントは笑ってラベンダーを見た。ラベンダーが答える。

「それは〈ダレカさん〉。彼女もOBAKEよ。美人でしょ? OBAKEのなかじゃ1番遭遇率が高いのよ」

 なんてこった。久しぶりにビビッと来た娘が、まさかOBAKEだなんて。オレも霊視力を鍛えないと。オレの愛は、次元を超えるぞ‼︎

(悲しいかな、男って単純)

 脱線していた話を、頭のイカれた――失礼、人間が大好きなティーツリーは元にもどした。

「なあ、ちょっと悠長すぎやしないか? あと12時間でガトフォセは死ぬぞ。さっさとスパフをどうするか、決めたほうがいいんじゃないか?」

 そうだった。欲情してる場合じゃない。オレたちは人間とちがって、食べなくても死なないし、タフだ。だから、危機感を持ちづらい。それが霊の欠点だ。
 ラベンダーは、OBAKEの話ができて満足したのか、興味なさそうにスマホをいじり始めた。
 ティーツリーはいった。

「アタシはオレンジに賛成だ。たしかにライミーのいうとおり分析すれば、対策も立てられるし、今後の疫病戦に役立てられるかもしれない。だけど、それはたくさんの人間を犠牲にしてまで、いまやることのようには思えない。放っておいてオーストラリアに上陸されたら、困るんだ。犯罪者共に利用されるぞ。それに、デトロイトでおそってきたブタたちみたいに、これを利用しようとする輩が冥府にいないとも限らない」

「そもそも、あいつらはいったい何なんだ?」

 ペパーミントの問いに、オレは答えた。

「ならず者だ。どこかで見たことがあると思ったら、手配書で見たことがある」

「犯罪者なのに、アロマ連合の船を破壊できるUFOを、どうやって手に入れたんだろう? しかも、ブタ殺し事件のブタだとしたら、霊としては新人だ。精霊界の事情も知らないはずだろ。やつらのブラスター、あれは威力も高いし、そうかんたんに手に入るものじゃない」

「……ペパー。オレたちはヤバい地面に、根を突っこんでるのかもしれない。あのゴブリン連中のバックに、動物界がいるなら説明がつく。動物界は信用できない。表ではやってないといいながら、裏ではいろいろやってる」

 根を貸してくれて、チアース、ティーツリー。サンクサミリヤン。オレはもういちど、説得に出た。

「これは、みんなが欲しがってる。昼間のブタたち、おまえも、ラベンダーも。持っているには危険すぎる。いまここで処分しよう」

 静まりかえる面々。
 ペパーミントの心は読めなかったが、香りでわかる。どうしても冥府に持って帰りたかったようだが、処分に協力してくれるようだ。
 スパフはビンのなかで、おとなしそうにちぢこまっている。まるで自分がどうなるか、わかっているみたいだ。そんな目でオレを見たって、ダメだからな。
 しかし、1人だけ空気が読めず、さわぐ輩がいた。
 ラベンダーだ。

「うわ、ヤバっ!」

「おい、二酸化炭素出すなよ」

 オレは顔をゆがめた。

二酸化炭素出すなよ。植物界の最近のスラング。場違いな発言や行動、雰囲気を壊したときに使う)

「いいから、このニュース見て」

 ラベンダーがみんなに見やすいように、エアリスで表示する。
 ニュース番組は、植物界で有名な特ダネだ。
 メインキャスターの小倉さんが話していた。白髪の男性だ。

「それにしても、ひどい事件ですね。特にいまの時期、これやっちゃマズいでしょ」

 ボードでニュースを説明している女性アナウンサーが答えた。

「おっしゃるとおりなんですが、しかも犯人の経歴を見ると、なんと、元アロマ連合所属の精霊なんです」

「なんでこういうことしちゃうかな~。だってせっかく精霊界全体でね、世界大戦を止めるために、スペイン風邪には干渉しないようにって取り決めがあったにもかかわらず、こういうことしちゃうなんて、ぼくには理解できない。しかもアロマ連合の関係者だなんて」

「その件で今回、目撃者の男性に取材することができましたので、ご覧ください。どうぞ」

 オレはなんだか、いやな予感がした。
 インタビュー映像に出てきたのは、リーダーのブタやろうだった。

 ――あいつ!

 記者がマイクを向けていた。

「事件当初、どんな様子でした?」

 ブタやろうはいった。

「びっくりしました。ぼくはともだちと観光に来てたんですが、いきなり空が光ったかと思うと、UFOが落ちてくるじゃないですか。もうびっくりしてあわてちゃって」

 ――ビックリしたのはオレだよ!

スペイン風邪の勢いも、すごかったですよね?」

「もうすごい、赤い鳥がとにかくたくさん飛んでて、せっかくデトロイトに来たのに、なんでこんな不気味なんだろうと思いました」

「アロマ連合のUFOをおそった犯人を、目撃したということですが?」

「はい。UFOが落ちたあと、すごい良い香りがして、匂いをたどって行ってみたんです。そしたら、ベル島でスペイン風邪を、封霊ビンにとじこめてる男がいたんです」

「その男は、ほんとうに花の精霊で間違いないんでしょうか?」

「はい、間違いありません。ぼくは動物の精霊ですよ、鼻は敏感ですから。あの匂いは柑橘系の精霊です」

 ――うそつけ、おまえ、ペパーのマヒの香りもわかんなかったじゃん!

「そもそも、なんでデトロイトに?」

「車が大好きなんですよ。あんな乗り物を作れるなんて、人間はすごいですよね。UFOにはない魅力です。ぼくは生前、ブタ殺し事件で人間に処分されてしまったんですが――ブタにジャガイモを与えるくらいなら、人間が自分たちで食べたほうがいい――そういう理由で大量虐殺されてしまったんです」

「人間を憎んでないんですか?」

「憎むなんて、とんでもない。ぼくは人間が大好きです。だから、精霊界のみんなにも、人間と仲良くして欲しいな」

「ありがとうございます」

 ――ドイツ人に復讐するって、いってたじゃねえか‼︎ よくもそんなしらじらしいうそを、次から次へと!

 インタビュー映像が終わり、再び場面はスタジオにもどった。
 女性アナウンサーはいった。

「いまのが目撃者のインタビューなんですが、スペイン風邪の反応が弱まったのがベル島、そして柑橘系の香りが残っていたというのは、アロマ連合の調査の結果とも一致します」

 小倉さんは、しぶい顔になった。

「それで、犯人はまだ見つからないの?」

「犯人の行方は現在捜索中とのことでして、実は、さきほどの男性に協力してもらい、犯人の顔を思いうかべてもらい、霊視した結果、犯人の顔を入手いたしました。こちらです」

 ドンッと、オレンジ色の髪の少年が映った。
 オレは仲間たちにいった。

「……犯人は、なかなかのハンサムだな。だが、どこかで見たことがあるぞ?」

 仲間たちは無言だった。
 植物は新鮮な空気を作ってくれるのに、この部屋の空気ときたら、なんだか腐っていた。花が4輪もいるのにな。
 小倉さんは、きびしい意見をいった。

「これさ、せっかく、足並みそろえて精霊界が世界大戦を止めようとしたのに、こういうニュースがあるっていうのは、かなしいよね。花の精霊としていうけど、同じ植物界の精霊がこういうことしちゃうのは、なんだかなぁ。それにしても彼、さっきの動物界のヒトはすごいよね。あのブタ殺し事件の当事者なのに、人間が大好きっていうんだから。彼みたいな精霊が、もっと増えるといいよね」

 オレは念じて、ラベンダーのエアリスをむりやり切った。そして、どなった。

「なんであいつが被害者扱いされてて、オレが犯人になってる⁉︎ どういうことだ!」

 ティーツリーは冷静にいった。

「やっぱり、この件は何かおかしい。何か大きな力が働いている」

「小倉は頭がおかしい、ラベンダーなんか天使になってたんだぞ! だれより目立つのに、なんでこいつを報道しない?」

 ティーツリーが、またしても冷静に答えた。

「天使界に、木を使ったんだろう。天使界は人間の支援に積極的だからな。犯行現場に天使がいたら、天使界の印象も悪くなる。1万年生きてる先輩としてアドバイスするが、これからは、変身して正体をかくすことだな」

「うるさい、ダメージがひどくて、変身なんかできなかったんだ! もし逮捕されたら、どうなると思う?」

「オーストラリア送りにされて『ガソリンツリー』に殺される」

「それか冥界のタルタロスで、生まれ変わることもできないまま無期懲役

 ティーツリーとペパーミントの発言に身ぶるいした。まじめに生きてきたのに、あんまりだ。体温が急激に下がった気がした。

「……おまえたちがいうと、説得力がありすぎるな。なんでここに、地球を代表する2大監獄――オーストラリアと冥界の精霊がいるんだ? マズい、すぐにここをはなれよう、連合が来る! いや、その前にビンを処分しないと」

 手をのばしてビンをつかもうとしたが、ビンはオレから遠ざかった。
 ラベンダーが、先にビンを手に入れた。

「これは、わたしが責任を持って処分してあげる。忠実になるよう調教して、人間界にいっぱいばらまいた後でね」

 あわい紫色の髪をなびかせ、白いワンピースの少女は玄関へ走った。